アシュフォードの「ペンケース哲学」を探る旅へ 2

 

アシュフォードは豊富にシステム手帳をラインアップしていますが、実はペンケースの種類もとても多彩に揃っています。雑誌編集者でありペンケース研究家でもある清水茂樹さんの実践に基づくペンケース使用レポートの第2回は、アシュフォードならではの個性的なモデルと、汎用性のある軽快モデルです。

「趣味の文具箱」編集長 清水茂樹さん

文房具好きのバイブル的な存在である「趣味の文具箱」編集長。
システム手帳好きが高じて2016年からは「システム手帳スタイル」を発刊。
システム手帳に潜む趣味と快楽を追求し続けています。
システム手帳歴は「30年を超えた!」そうです。

 

アシュフォードの
「ペンケース哲学」を探る旅へ

 

ペンケース悦楽使用レポート
<第2回>
「趣味の文具箱」編集長
清水茂樹

 

「良いデザイン」とは何か。

単にかっこいいだけが良いデザインではない。

使いやすい形、間違った使い方をしない配置、すぐそれとわかる色の組み合わせ……など、考え方は多様にある。
デジタル機器が全盛の今、万年筆やボールペン、ペンシルなどの筆記具に求められるのは「感情を動かす」デザインだ。
見て、触れて、握って、書いて……と、ペンが道具として稼働する時に、使い手の五感に向けて、どれだけ響くのか。
買ったばかりの新しい万年筆でも、10年以上使い続けているペンシルでも、いつもでも、どこでも「使ってみたい」と強く思わせる佇まいが良いペンの条件だと思う。

五感を揺さぶる筆記具のデザインに不可欠なのが、器としてのペンケースだ。

アシュフォードのペンケースには、システム手帳メーカーならではの「器の思想」が反映されている。
いかに快適に使いやすいか、だけではない、遊び心、おしゃれ、ファッション……といった、アシュフォードのシステム手帳が放つ文具の楽しさ、悦楽主義がある。ペンのデザインの良さをどんだけ盛り上げてくれる器なのか。そんな観点も含めて、アシュフォードのペンケースを駆使してみた。

トラッドなだけじゃない「ストラーダ ペンシース」の魅力

ストラーダは、3本挿し。イタリア産の素上げの植物タンニンなめし革を使い、短めのフラップを開閉する伝統的なスタイルを持つ。色は、ブラック、ワイン、ブラウンの3色があるが、ブラウンだけのお楽しみとして紫色のステッチが使われている。レザーとステッチのコントラストが明快で楽しい。このペンケースに入れる万年筆にはセピア系やパープル系のインクを合わせて使いたくなる。

カバーを開けるとステッチと同じパープルの仕切り(ペントレー)が見えてくる。仕切りのツマミを引き出すと、仕切りがスライドして3本のペンが出てくる仕組みだ。

キャップトップやクリップ回りに欧州の伝統的なスタイルを持つ金属製のペンを入れてみた。伯爵コレクションは、19世紀に純銀製のペンシルが全盛だった頃の形を複合し現代的にデザインしている。ヤード・オ・レッドはペンシルの元祖であり、200年の伝統を守り続けている。ヨーロッパのペンが持つ伝統の形が3本まとめてスライドして出てくる景色は、絶佳だ。

ストラーダ ペンシース

サイズ/H155×W55mm
価格/8,000円+税

 

堅牢なアルミケースをレザーで包んだ
「トラッド ペンシース スライドオープン」


自分が手がけている雑誌「趣味の文具箱」の制作現場では、ペンのヘビーユーザーと対面して文具話をすることが多い。
ペンケースの話題になると「とにかく丈夫なケースが欲しい」という声が必ず出てくる。

様々な思い出や物語を帯びた大切なペンに無用な傷を付けたくないし、毎朝乗る満員電車で100キロを超えるような加重にもさらしたくはない。そして、雑誌を作る現場でも似たような思いを抱くことが多い。撮影用にメーカー(や代理店)から借用するペンは、試作状態でこの世にまだ1点しか存在しないものであったり、世界限定10本で価格は外車1台が簡単に超えるなんてモデルもある。

確実にペンを保護するオーバースペックな堅牢さを持つケースには、それなりの需要があるのだ。

というわけでこの「トラッド ペンシース スライドオープン」の基本設計には「趣味の文具箱」編集部が濃厚に関わっている。

デザインの初期のイメージは戦場の最前線で使う鉄製の弾丸ケースだった。
しかし、金属まる出しのケースでは収納するペンに優しくない。堅牢なアルミケースを作り、その上から艶消しの上質なレザーを纏っているのだ。突起がない簡潔な箱にするために、カバーの開閉はマグネット式になっている。親指でカバーを左右にスライドして開ける。カバーの固定はマグネットで確実に、ペンを使う時はワンタッチで開閉ができる。

長年使い慣れた愛用の3本を入れてみた。モンブラン・マイスターシュテュック146(ルグラン)と、ペリカン・スーベレーンM800だ。ごく標準的なサイズの万年筆がぴったり収納できる。収納する時はペンケースのお約束である「クリップ位置を斜めに倒しておく」ことで、より安定した収納ができる。


色はブラック、レッド、カーキの3色。自分はカーキを選んだ。この迷彩色とカバーを開けた時の内装の濃厚なグリーンとの力強いコントラストが、筆欲を一気に臨戦態勢モードに上げてくれる。

トラッド ペンシース スライドオープン

サイズ/H165mm×W 60mm
価格/15,000円+税

 

ミニペン愛好者に捧げる
「シャーロット ペンケースS」

小さい万年筆をサブとして持ち歩いている方は多いと思う。「サブ」の意味を辞書で調べてみると「補欠、補助の」なんて書いてある。「趣味の文具箱」では、今まで「ミニペンはスーパーサブだ」といった企画で、機能的で美しいミニペンを紹介してきた。書きたいと思った時に、軽快にすぐ取り出せるミニペンは、軽快だからこそ使う機会が多く、立ち位置はサブでも筆記距離やインクの吸入量は格段に多く、日々活躍し、結局スタメンを超える出番が多くなったりするものだ。だから仕事も趣味でもライフスタイルを支えるミニペンこそ、堅牢で機能的なモデルを厳選しよう、というメッセージを誌面から送り続けている。

機能的なミニペンを象徴するモデルは何?と聞かれたら、ベタながらも「モンブラン・マイスターシュテュック モーツァルト」シリーズと「ペリカン・スーベレーン300」シリーズと答える。ミニペンなので長時間の筆記には向かないが、どちらもブランド伝統のスタイルをそのままコンパクトにしているだけあって、持ちやすく、書きやすい。万年筆のM300は、このサイズでもピストン吸入式を採用しており、とにかく愛らしい。

サブのペンを日々フル活用するためには小型なペンケースが欲しい。ペンケースの世界では、大は小を兼ねない。ミニペンを機能的で美しく収納する2本挿し「シャーロット」は、2017年のアシュフォード創立30周年を記念するモデルとして誕生した。

ペンを固定するベルトは下寄りにシフトしており、ペンの個性を主張するキャップリングや胴軸の中央部など最もふっくらとした部分が良く見える。必然的に取り出しの操作もスムーズにできる。カバー裏にはあおりポケットを配置。自分はマイクロ5のリフィルを2つ折りにして収納している。こうしておくと、とっさのメモはこのペンケースを開くだけですぐにできる。

シャーロットはミニペン用の設計だが、ぎりぎりでペリカン・スーベレーンM400も収納できる。M400もコンパクトサイズだが、キャップを尻軸に装着すると標準的な長さになり、こちらは長時間筆記も十分できる。こんなぎりぎりサイズのペンを入れることを想定して、シャーロットのジッパーはナイロン製を採用している。

シャーロット ペンケース

サイズ/H130mm×W45mm
価格/5,800円+税

 

編集者を“校正モード”に一瞬で切り替える
「ベスティート ペンケース」

ベスティートは、仕切りのない「ざっくり型」のペンケース。大ざっぱにペンを収納するが、断面は絶妙な三角で、ペンの取り出しがしやすい。

自分は、ベスティートには編集の校正用の鉛筆ホルダーを入れている。校正に必須となるのは、赤と黒の文字を書くペンだ。編集部の引き出しには、万年筆や油性ボールペン、マジックインキ、鉛筆、サインペンなど、多種多様な赤と黒の校正用のペンが並んでいる。

多忙な時期は校正紙を持ち歩いて、出先の喫茶店や出張の新幹線などで、どこでも校正をする。行くところを「どこでも校正室」にするためにペンケースが必須となる。出先で校正するには鉛筆が最適だ。簡単に書けて、書いた文字は消えづらく、修正するなら消しゴムですぐ消せる。校正に最も機能的な鉛筆と赤鉛筆を追求した結果、たどり着いたペンの組み合わせがこれだ。

2本の芯ホルダーにHBと4Bの芯を装着。もう2本の芯ホルダーには赤い2mm芯を装着。そして予備の鉛筆ホルダーでは主に尻軸の消しゴムを使う。これらの細身のホルダー5本がちょうどよく収まる。ジッパーを開いて、ペンを机上に並べると気分は一気に校正モードに切り替わるのだ。

ベスティート ペンケース

サイズ/H180mm×W50mm
価格/3,800円+税

 

ペンをにぎにぎしないと読めない特異体質に寄り添うペンケース「キュリオ」

キュリオも「ざっくり型」のペンケース。スリムで軽量。重さはなんと33gだ。

編集の仕事で校正をしたり、資料を読み漁ったりする時は、赤字を入れたり、感想を書き込んだりするので、必ずペンを右手に持っている。この長年の癖が付いてしまい、どんな本を読む時でもペンを握っていないと字面の向こうにある意味や含みが頭に入ってこない体質になってしまった。雑誌でも新聞でも小説を読む時も、ペンを握っていないと落ち着かないのだ。
これも職業病のひとつだろうか。

自分が本や雑誌をじっくりと読む場所の多くは、電車の中か喫茶店だ。
だからカバンの中の一番取り出しやすいところに「読むためのペン」を置いている。
キュリオは、このペンを入れておくのにとても重宝している。スリムなので、カバンの隙間にすっぽり入る。

本を読む時は、アンダーラインを入れるためのマーカーを握っていることが多い。
ステッドラーの鉛筆ホルダーにクツワの「鉛筆の蛍光マーカー(イエロー)」を装着している。鉛筆芯なのでキャップの着脱をしなくていいので、読むことに集中できる。これに書き込み用の2mm芯ホルダーと油性ボールペン、明快なアンダーライン用のボールぺんてるを加えた「読むための4本」をキュリオに収納している。

キュリオ ペンケース

サイズ/H40mm×W185mm
価格/3,700円+税